東京地方裁判所 平成8年(ワ)18183号 判決 1997年12月25日
原告
飯島位夫
外一名
右両名訴訟代理人弁護士
清塚勝久
同
遠藤元一
同
安部洋平
被告
赤木靖弘
外一名
右両名訴訟代理人弁護士
近藤彰子
同
若柳善朗
被告
協栄建設株式会社
右代表者代表取締役
高野勝次郎
右訴訟代理人弁護士
谷正之
同
角谷雄志
被告
三信住宅販売株式会社
右代表者代表取締役
黒沢龍生
右訴訟代理人弁護士
宮下明弘
同
宮下啓子
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告赤木靖弘及び被告赤木紀子(被告赤木ら)に対する請求
被告赤木らは、原告らに対し、連帯して金一二〇〇万円及びこれに対する平成八年一〇月一五日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
2 被告協栄建設株式会社(被告協栄建設)及び被告三信住宅販売株式会社(被告三信住宅)に対する請求(主位的請求及び予備的請求)
被告協栄建設及び被告三信住宅は、原告らに対し、連帯して金七〇三万二〇六〇円及び内金一〇三万二〇六〇円に対する平成八年一〇月一三日から、内金六〇〇万円に対する平成九年一〇月一日から各支払済みに至るまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 仮執行宣言の申立
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 被告赤木らに対する請求原因
(一) 原告らは、平成八年五月二七日、別紙物件目録一及び二記載の土地(本件土地)及び本件土地上の同目録三記載の建物(本件建物)を、被告赤木らから左記の約定で買う旨の契約(本件売買契約)を締結した。
記
売買代金 六四八〇万円
代金支払方法
手付金として六〇〇万円を支払い、残代金五八八〇万円は平成八年七月三一日に支払う。
契約違反の解除特約
売主又は買主が本件売買契約に定める債務を履行しないときは、相手方は相当期間を定めて催告した上解除できる。契約解除に伴う違約金は手付金相当額とし、売主の債務不履行により買主が契約を解除したときは、売主は受領済みの金員に違約金を付加して買主に遅滞なく支払う。
(二) 原告らは、右同日、被告赤木らに対し手付金六〇〇万円(本件手付金)を支払った。
(三) 本件売買契約においては、本件土地建物が次の二つの条件(本件二条件)を満たすことが合意されていた。
(1) 本件土地に自動車二台分を格納できる地下車庫が築造可能であること
(2) 本件土地建物の南側に緑を一望できること
(四) しかし、本件土地建物は、本件売買契約において合意された本件二条件を満たすものではなかったから、右は民法五七〇条所定の「隠レタル瑕疵」に当たり、したがって、被告赤木らには、本件売買契約上の瑕疵担保責任があり、しからずとするも、本件土地建物が本件二条件を満たすことは本件売買契約上の被告赤木らの債務の内容となっているのであるから、右被告両名には債務不履行責任がある。
(五) また、本件土地建物については、本件売買契約締結後、次の(1)ないし(3)の事実(本件三事実)があることが判明した。
(1) 本件土地には、除去解体に多額の費用が嵩む浄化槽が埋設されていた。
(2) 本件建物は建築確認を経ておらず、かつ建坪率違反の違法建築物であること。
(3) 本件土地の接面道路は、私道であり、建築基準法上の道路ではないから、本件土地を建築物の敷地とするには、道路位置指定を受けるために道路となる敷地の所有者全員の承諾に基づく通路協定が必要であるのに、現実にはそのような通路協定は成立していなかった。
右(1)ないし(3)は本件土地建物の民法五七〇条所定の「隠レタル瑕疵」に当たる。
(六) 被告赤木らには、前記(五)の(1)ないし(3)の事実について、本件売買契約上の瑕疵担保責任があり、また、被告赤木らは、本件売買契約に付随する債務として、売主として買主である原告らに対して右の各事実を契約成立時までに告知する義務があるから、この点の不告知は本件売買契約上債務不履行となる。
(七) 以上の理由から、原告らは被告赤木らに対し、本訴状をもって本件売買契約を解除する旨の意思表示をし、本訴状は平成八年一〇月一四日被告赤木らに到達した。
(八) よって、原告らは、被告赤木らに対し、本件売買契約の特約に基づき、本件手付金六〇〇万円及び手付金同額の違約金の合計金一二〇〇万円並びに訴状送達の日の翌日である平成八年一〇月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 被告協栄建設に対する請求原因
(一) 主位的請求原因
(1) 被告協栄建設は、住宅・土地の売買契約の仲介周旋を業とする株式会社である。
(2) 原告らは、被告協栄建設との間で、平成八年五月中旬ころまでに、前記本件二条件を満たした東京都内の土地建物の購入の媒介を被告協栄建設に依頼する契約を締結した(本件媒介契約)。
(3) 原告らは被告協栄建設に対し、平成八年五月二七日、本件媒介契約上の仲介手数料として金一〇三万二〇六〇円(本件仲介手数料)を支払った。
(4) 本件土地建物は本件二条件を満たす物件ではなかったのであるから、被告協栄建設としては、本件媒介契約上、原告らに対して、本件土地建物が本件二条件を満たすものではないことを調査確認し、その結果を原告らに説明する義務があるのに、被告協栄建設は原告らに対する右調査確認義務及び説明義務を履行することを怠った。また、本件土地建物は本件二条件を満たすものではなく、したがって原告らの希望条件に合致しない物件であるから、被告協栄建設は原告らに対し、拙劣かつ不適切な売買をしないよう指導・助言する義務があったのにこれを怠った。被告協栄建設の右各義務の懈怠は、原告らに対する本件媒介契約上の債務不履行に当たる。
(5) 被告協栄建設は、本件媒介契約上、原告らに対して、本件土地建物の売買に際して、本件三事実が存在することを調査確認し、その結果を原告らに説明する義務があるのに、被告協栄建設は原告らに対する右調査確認義務及び説明義務を履行することを怠った。また、本件土地建物には本件三事実が存在しており、したがって原告らの希望条件に合致しない物件であるから、被告協栄建設は原告らに対し、拙劣かつ不適切な売買をしないよう指導・助言する義務があったのにこれを怠った。被告協栄建設の右各義務の懈怠は、原告らに対する本件媒介契約上の債務不履行に当たる。
(6) 本件売買契約においては、原告らにおいて本件建物の取り壊し義務を負担する旨の特約があるが、被告協栄建設は原告らに対して、本件売買契約の締結に際して、右の特約について何らの説明も行わなかったが、この点も本件媒介契約上の債務不履行に当たる。
(7) 原告らは、被告協栄建設の右債務不履行により、本件仲介手数料相当の金一〇三万二〇六〇円及び原告らが本件売買契約において支払った本件手付金相当金六〇〇万円の合計金七〇三万二〇六〇円の損害を被った。
(8) よって、原告らは、被告協栄建設に対し、本件媒介契約の債務不履行に基づく損害賠償請求(主位的請求)として、本件仲介手数料相当の金一〇三万二〇六〇円及び原告らが本件売買契約において支払った本件手付金相当金六〇〇万円の合計金七〇三万二〇六〇円及び内金一〇三万二〇六〇円に対しては訴状送達の日の翌日である平成八年一〇月一三日から、内金六〇〇万円に対しては平成九年一〇月一日から、各支払済みに至るまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
(二) 予備的請求原因
(1) 仮に、前記(一)の(4)ないし(6)の被告協栄建設による義務違反が本件媒介契約上の債務不履行とならないとしても、被告協栄建設は、宅地建物取引業法の趣旨に照らし、高度の専門知識を有する宅建業者として、前記(一)の(4)ないし(6)記載の注意義務があり、また、本件土地建物については、原告らの希望条件に合致しない物件であるから、拙劣かつ不適切な売買をしないよう指導・助言する注意義務があるのに、これらの注意義務を故意又は過失により懈怠したことにより原告らをして被告赤木らとの間で本件売買契約を締結させたことにより、原告らに、本件仲介手数料相当の金一〇三万二〇六〇円及び原告らが本件売買契約において支払った本件手付金相当金六〇〇万円の合計金七〇三万二〇六〇円の損害を被らせた行為は、原告らに対する不法行為に当たる。
(2) よって、原告らは、被告協栄建設に対し、不法行為に基づく損害賠償請求(予備的請求)として、金七〇三万二〇六〇円及び内金一〇三万二〇六〇円に対しては訴状送達の日の翌日である平成八年一〇月一三日から、内金六〇〇万円に対しては平成九年一〇月一日から、各支払済みに至るまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
3 被告三信住宅に対する請求原因
(一) 被告三信住宅は、本件土地に除去解体に多額の費用が嵩む浄化槽が埋設されていたことを知っていたのであるから、原告らに対しその旨の説明をする義務があったのに説明をしなかったのは、宅地建物取引業法四七条一号違反に当たる。
(二) 被告三信住宅には、本件建物が建築確認を経ておらず、かつ建坪率違反の違法建築物であることについて調査確認し、その結果を原告らに対して説明する義務があるのに、この義務の履行を怠った。
(三) 前記のとおり、本件土地の接面道路は、私道であり、建築基準法上の道路ではないから、本件土地を建築物の敷地とするには、道路位置指定を受けるために道路となる敷地の所有者全員の承諾に基づく通路協定が必要であるのに、現実にはそのような通路協定は成立していなかったのであるから、被告三信住宅としては、この点について正確な事実を調査してその結果を原告らに対して説明する義務があるのにこれを怠った。
(四) 被告三信住宅は宅地建物取引業者であり、委託を受けていない原告らに対しても不測の損害を生じさせないように配慮すべき業務上の注意義務を負担しているのであるから、被告三信住宅の前記(一)ないし(三)の義務の懈怠は、原告らに対する不法行為に当たり、原告らは、被告三信住宅の右不法行為により、本件仲介手数料相当の金一〇三万二〇六〇円及び原告らが本件売買契約において支払った本件手付金相当金六〇〇万円の合計金七〇三万二〇六〇円の損害を被った。
(五) よって、原告らは、被告三信住宅に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、金七〇三万二〇六〇円及び内金一〇三万二〇六〇円に対しては訴状送達の日の翌日である平成八年一〇月一三日から、内金六〇〇万円に対しては平成九年一〇月一日から、各支払済みに至るまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
4 被告協栄建設に対する請求と被告三信住宅に対する請求との関係
原告らは、被告協栄建設の本件媒介契約上の債務不履行(主位的請求原因)ないし不法行為(予備的請求原因)と被告三信住宅の不法行為により、本件仲介手数料相当の金一〇三万二〇六〇円及び原告らが本件売買契約において支払った本件手付金六〇〇万円の合計金七〇三万二〇六〇円の損害を被ったのであるから、被告協栄建設の右債務不履行ないし不法行為も被告三信住宅の右不法行為もいずれも原告らの右損害との間に相当因果関係があり、また、被告協栄建設の不法行為と被告三信住宅の不法行為は共同不法行為に当たるから、被告協栄建設の原告らに対する損害賠償義務と被告三信住宅の原告らに対する損害賠償義務とは連帯債務となる。
二 請求原因に対する認否
1 被告赤木らの認否
(一) 請求原因1(一)及び同(二)の事実は認める。
(二) 同(三)の事実を否認する。本件売買契約は平成八年五月二七日に締結されたものであるところ、被告赤木らは、同年七月三〇日に発信された解除通知書と題する内容証明郵便(本件解除通知書)(乙イ一)により、原告らから初めて地下車庫築造の件を知らされたのである。また、被告赤木らが本訴状において初めて原告らが本件土地建物の南側に緑を一望できることが本件売買契約の条件となっていることを主張していることを知ったものであり、本件解除通知書(乙イ一)にもこのことについては何ら言及がされていないことからも、本件土地建物の南側に緑を一望できることが本件売買契約の条件となっていないことは明らかである。
(三) 同(四)は争う。
(四) 同(五)の事実のうち、本件土地に浄化槽が埋設されていたことは認めるが、原告らが本件売買契約締結後に浄化槽埋設の事実を知ったとの点は否認する。原告らは浄化槽埋設の事実を知った上で本件売買契約を締結したものである。また、右浄化槽は、本件建物の付帯設備として後日本件建物とともに解体撤去される予定になっていたものであり、浄化槽の撤去費用は一〇万円程度のものであった。売買の目的物の瑕疵とは、その物が通常保有する性質を欠いていることをいうが、右浄化槽は本件建物の解体にともない撤去される予定のものであり、その撤去の費用も安価であることから、右浄化槽の存在をもって売買の目的物である本件土地の瑕疵ということはできない。なお、本件売買契約締結の翌日である平成八年五月二八日、原告らは、被告協栄建設を介して、浄化槽の撤去費用の半額を負担するよう要請してきたので、被告赤木らは、これを了承した。また、同年七月に原告らは、浄化槽の撤去費用を全額負担するように要請してきたので、被告赤木らはこれを了承した経緯がある。このような経緯に照らして、原告ら浄化槽の埋設をもって民法五七〇条所定の「隠レタル瑕疵」に当たると主張することは信義則に反し許されない。
本件建物について建築確認を経ていないことについては知らない。原告らは本件建物を取り壊して新築を予定していたのであり、本件土地上には本件建物取り壊し後建物を新築することが可能であるから、本件建物が仮に原告らの主張するように違法建築物であるとしても本件売買契約の効力に影響はない。
また、本件売買契約においては、本件土地の前面私道に道路位置の指定を受けることは予定していなかった。本件土地の建物の建築は、建築基準法四三条一項但書の適用により可能であるから、この点について通路協定の不存在をいう原告らの主張も失当である。
(五) 同(六)は否認ないし争う。
(六) 同(七)の事実は認める。
(七) 同(八)は争う。
2 被告協栄建設の認否
(一) 請求原因2(一)(主位的請求原因)について
(1) 同(1)及び同(3)の事実は認める。
(2) 同(2)の事実は否認する。原告らは、本件売買契約の締結に至るまで、被告協栄建設に対して、本件土地での地下車庫築造が可能であるという条件を提示したことはなかった。また、本件売買契約の締結の前に、原告飯島幸枝(原告幸枝)から被告協栄建設に対して、「リゾート感のあるところ、森の中」という希望が出されたことはあるが、南側に緑が一望できるという条件を原告らから本件売買契約の締結前に提示されたことはなかった。
(3) 同(4)の事実のうち、本件土地での地下車庫築造が不可能であること及び本件土地建物の南側に緑を一望できるというわけではないことは認め、この点について被告協栄建設に調査確認義務や説明義務ないし原告らに本件売買契約を締結しないように指導・助言する義務があることは争う。
(4) 同(5)の事実のうち、本件土地に浄化槽が埋設されていたことは認めるが、原告らが右浄化槽の存在を知らないで本件売買契約を締結したとの事実は否認する。原告らは、本件売買契約締結前に被告赤木らから説明を受けて浄化槽の存在を認識した上で本件売買契約を締結した。また、浄化槽の撤去費用はおよそ一〇万円位であり、本件売買契約締結の約一週間以内に浄化槽の撤去費用は原告らと被告赤木らで折半するということになり、更に平成八年七月中旬には被告赤木らが全額負担することとなったのであり、結局原告らは右浄化槽の撤去費用を全く負担しないこととなったのであるから、被告協栄建設には浄化槽の存在及びその撤去費用について調査確認義務や説明義務ないし原告らに本件売買契約を締結しないように指導・助言する義務が発生する余地がない。
本件建物が建築確認を経ていないことは知らない。本件建物は昭和四三年建築であるから、区役所の保存期間切れで、本件建物が建築確認を経ていないことについて調査をすることは不可能であるから、被告協栄建設に本件建物が建築確認を経ていないことについての調査確認する義務は発生しないし、この点についての説明義務もない。また、原告らには本件建物の取り壊し義務があったのであり、原告らが本件建物に居住することは予定されていなかったのであるから、本件建物が建築確認を経ているか否かは本件売買契約上重要なことではなく、この点からも本件建物が建築確認を経ているか否かについて被告協栄建設に説明義務ないし原告らに本件売買契約を締結しないように指導・助言する義務があるとはいえない。
また、本件土地の前面道路は位置指定道路ではないが、被告協栄建設は、原告らに対して、本件土地の建物の建築は、建築基準法四三条一項但書の適用により可能であることを説明したから、この点について通路協定の不存在をいう原告らの主張も失当である。
(5) 同(6)の事実のうち、本件売買契約には原告らが本件建物の取り壊し義務を負担する旨の特約があることは認めるが、被告協栄建設は原告らに対して、本件売買契約の締結に際して、右の特約について何らの説明も行わなかったとの点は否認する。被告協栄建設は原告らに対してこの点の説明を十分している。
(6) 同(7)及び同(8)のうち、原告らが本件売買契約において手付金六〇〇万円を支払った事実は認めるが、その余は争う。
(二) 請求原因2の(二)(予備的請求原因)について
(1) 同(1)の原告らが主張する注意義務が被告協栄建設にあることは否認ないし争う。被告協栄建設の原告らに対する不法行為が成立することは争う。
(2) 同(2)は争う。
(三) 請求原因4は争う。
3 被告三信住宅の認否
(一)請求原因3(一)は争う。浄化槽の撤去費用については最終的には被告赤木らが全額負担し、原告らの費用負担はないこととなったのであるから、仮に原告らにおいて浄化槽の存在を本件売買契約締結時に知らなかったとしても、被告三信住宅に原告らの主張する説明義務があったとすることはできない。
(二) 同(二)の事実のうち、本件建物が建築確認を経ていないことは知らない。
本件建物は昭和四三年建築であり、当時の建築確認の有無については調査の方法がなかったから、被告三信住宅には原告らの主張する調査義務はない。また、本件売買契約においては、本件建物を取り壊すことが前提とされていたから、仮に本件建物が建築確認を経ていないとしても、買主である原告らに何らの不都合もなく、したがって、この点について被告三信住宅に説明義務違反があるとすることはできない。
(三) 同(三)ないし同(五)は否認ないし争う。
(四) 請求原因4は争う。
第三 証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 被告赤木らに対する請求原因について
(一) 請求原因1(一)及び同(二)の事実は当事者間に争いがない。
(二) 同(三)の事実について
(1) 地下車庫築造が可能という条件について
証拠(甲二の1、2、三ないし五、乙ロ一、三、四、五、六、乙ハ四、原告飯島位夫、同飯島幸枝、証人山鹿友嗣、同染谷英之、同横川直史)によれば、次の事実を認めることができる。
原告幸枝は、平成八年五月一五日、被告協栄建設に電話して土地建物の紹介を依頼したが、原告幸枝からの電話に応対した被告協栄建設の染谷英之(染谷)は、原告幸枝に対して本件土地建物(本件物件)を含む四件の物件を候補として紹介し、同月一八日自動車を運転して原告幸枝に右四物件を案内したところ、原告幸枝は翌一九日、電話で染谷に対し、本件土地建物の購入を希望する旨伝えた。そこで染谷は本件土地建物の売主である被告赤木らの売買を仲介している被告三信住宅の横川直史(横川)に電話で問い合わせたところ、本件物件には既に先順位の購入希望者がいることが判明した。そこで翌二〇日、染谷の上司である山鹿友嗣(山鹿)から原告幸枝に電話で本件物件には既に先順位の購入希望者がいる旨連絡したところ、原告幸枝は諦めずに山鹿に対し本件物件の購入についての再交渉を強く希望し、更に原告幸枝は同月二二日にも染谷に電話で本件物件の購入の再交渉を希望してきた。その際染谷は原告幸枝に対し、再度既に先順位の購入希望者がいるから購入は困難である旨伝えるとともに、原告幸枝を諦めさせる意味もあって浜田山の物件を案内するなどした。
ところが、染谷は、同月二五日、被告三信住宅の横川から、本件物件の先順位の購入希望者との売買契約が延期になったことから、原告らが確実に契約を締結するなら契約手続をすることが可能である旨の連絡を受けたので、原告幸枝に電話で横川からの連絡の趣旨を伝えたところ、原告幸枝が契約締結の手続に入ることを希望したため、同原告に対し、契約締結に先立ち、重要事項の説明をするために被告協栄建設の事務所に来るように要請した。
原告幸枝は、右同日、染谷の右要請に応じて被告協栄建設の事務所に赴き、同所において、染谷の立会の下、横川から本件物件についての重要事項について説明を受けると同時に、原告幸枝、染谷及び横川において、本件売買契約を同月二七日に締結することに合意した。その際、横川は、本件物件についての重要事項説明書及び重要事項説明書補足説明書(甲二の1)を全文読み上げるなどして原告幸枝に対して重要事項の説明をした。その後遅くとも翌二六日までには原告幸枝の要請に基づき、本件物件の重要事項説明書及び重要事項説明書補足説明書(甲二の1)及び通路協定申請図写(甲二の2)のコピーが被告協栄建設から原告らに交付された。前記重要事項説明書補足説明書には、本件物件は杉並区南部区画整理地区として計画決定された区域内にあることから、①建築物を建築する場合には原則として都道府県知事の許可が必要となること(都市計画法五三条所定の建築の許可について記載したものと認められる。)、②建築物の階数が二以下で、かつ地階を有しないこと(同法五四条一号所定の建築制限を記載したものと認められる。)、主要構造部が木造・鉄骨造・コンクリートブロック造その他これらに類する構造であること(同法五四条二号所定の建築制限を記載したものと認められる。)という要件を具備するときに限り都道府県知事の許可がされること等の建築制限がある旨の記載がある。また、前記通路協定申請図写(甲二の2)は、本件物件の隣接地で本件物件と同様の前記の建築制限がある土地の所有者である岩田辰也(岩田)が建築物の建築確認申請に当たり作成した通路協定申請図の写であるところ、同書面の「通路のみに接する敷地についての建築条件」には、「階数は二階以下、最高高さは8.5メートル以下」の記載がある。
被告協栄建設の染谷は、本件売買契約の契約締結の当日である同月二七日の午前中、被告協栄建設の社員である田平真一(田平)に念のために杉並区役所に本件物件についての規制等について調査させたが、その調査の結果田平が作成したメモ(甲三)には、本件物件が土地区画整理事業区域内にあることと関連して「細街路にかかっていないので念書を提出すれば堅固な建物もOK」との記載があるほか、当該区域内の建築確認の番号や水道及びガスの整備状況についての調査結果が記載されている。
原告飯島位夫(原告位夫)は、本件売買契約の締結当日の同月二七日までに、被告協栄建設から交付された本件物件の重要事項説明書及び重要事項説明書補足説明書(甲二の1)及び通路協定申請図写(甲二の2)のコピーを通読し、これらの書面に、前記のとおり、本件土地に建築物を建築する場合は、建築物の階数を二階以下にすること、かつ地階を有しないことという建築制限の記載があることを認識していた。
本件売買契約の手続は同月二七日午後七時頃から被告協栄建設の事務所で開始され、原告ら、被告赤木ら、被告協栄建設の山鹿、染谷及び被告三信住宅の横川立会の上、先ず横川において本件物件についての重要事項を説明し、その後売買契約書等に原告ら及び被告赤木らにおいて署名押印するなどして契約手続が終了した。
以上の認定事実によれば、原告らが本件売買契約の締結前に被告協栄建設から交付を受けた本件物件の重要事項説明書及び重要事項説明書補足説明書(甲二の1)及び通路協定申請図写(甲二の2)のコピーの前記記載から、本件土地上の本件建物を建て替える場合に地下車庫の築造をすることは不能であることが読み取れるのであり、原告位夫は、本件売買契約の締結当日の同月二七日までに、被告協栄建設から交付された本件物件の重要事項説明書及び重要事項説明書補足説明書(甲二の1)及び通路協定申請図写(甲二の2)のコピーを通読して、これらの書面には、本件土地に建築物を建築する場合は、建築物の階数を二階以下にすること、かつ地階を有しないことという建築制限(なお、この建築制限は、前記のとおり、都道府県知事の許可基準として都市計画法五四条一号で規定されているものと同内容のものである。)の記載があることを認識していたのであるから、遅くとも本件売買契約の手続が開始された同月二七日午後七時頃までには、原告らが本訴で主張している地下車庫の築造が不可能であることは認識していた可能性があるところ、本件売買契約の締結に際しては、更に被告三信住宅の横川から原告らに対して、本件物件についての前記の建築制限を含む重要事項の説明がされた上で本件売買契約が締結されていることに照らすと、本件売買契約においては本件土地に地下車庫を築造することが可能であることが条件となっていたとの原告らの主張事実を肯定することは困難であり、他にこの点の原告らの主張事実を認めるに足りる証拠はない。
仮に原告らの主張するように、地下車庫築造が可能であることが本件売買契約の条件となっているならば、結局において本件物件については地下車庫築造が不可能であるとしか解釈しようのない建築制限がある旨の本件重要事項説明書の前記記載部分を原告位夫において契約締結前に認識し、かつ契約当日においても被告三信住宅の横川から同様の説明を受けているのに、原告らにおいて本件物件についての前記建築制限がそのまま契約の内容となっている本件売買契約を締結することはあり得ないというべきである。
原告らの各陳述書(甲四、五)には、契約当日被告三信住宅の横川において本件重要事項説明書の前記建築制限の箇所を読み上げた際に、染谷が前記田平のメモ(甲三)を横川に交付し、更に横川が原告らにこれを交付して、かつ右メモを読み上げたが、その際、染谷も横川も原告らに対して地下車庫の築造が可能であることを請け合った旨の記載部分があり、前記田平のメモ(甲三)には、前記のとおり、本件物件が土地区画整理事業区域内にあることと関連して「細街路にかかっていないので念書を提出すれば堅固な建物もOK」との記載があるけれども、右の記載が本件物件について地下車庫築造が可能であることを示すものとはいえないことは後記のとおりである。また、右メモには、右の記載部分の他、前記のとおり、本件物件の存在する当該区域内の建築確認の番号や水道及びガスの整備状況についての調査結果が記載されているのであり、その記載内容に照らすと、右メモを作成した前記田平は、本件物件に地下車庫を築造することが可能か否かを調査したわけではなく、当該区域内の一般的な建築規制、建築確認の番号や水道及びガスの整備状況について調査したことが窺われるのであり、仮に前記田平メモの「細街路にかかっていないので念書を提出すれば堅固な建物もOK」との記載部分が原告らの主張するように地下車庫築造が可能であるとの趣旨ならば、「建築物を二階以下にすること」かつ「地階を有しないこと」という建築制限があることから地下車庫築造が不可能であることが読み取れる本件重要事項説明書の記載の趣旨とは明らかに矛盾するものというべきであるが、原告ら及び被告ら本件売買契約の関係者間において、前記田平メモの前記記載部分が本件重要事項説明書の記載の趣旨を変更する趣旨のものとして扱われたことを認めるに足りる証拠もない。
原告らは、乙ロ三及び同ロ四によれば、前記田平メモの前記記載部分の趣旨は、本件物件は区画整理区域内にあるから原則として堅固な建物は建築不可能であるが、建築した建物が区画整理事業の施行に支障となるときは移転に協力する旨の念書を提出することにより例外的に堅固な建物の建築確認が得られるというものであるところ、右証拠によれば、堅固な建物とは三階以上の建物であるから、結局前記田平メモは、右の念書を提出することにより、本件重要事項説明書に記載された建築制限にもかかわらず、本件物件においては地下車庫築造が可能となるとの趣旨を含むものであると主張しているところ、なるほど、原告らの指摘する前記証拠によれば、前記田平メモの「細街路にかかっていないので念書を提出すれば堅固な建物もOK」との記載部分の趣旨は、区画整理区域内では原則として堅固な建物は建築不可能であるが、建築した建物が区画整理事業の施行に支障となるときは移転に協力する旨の念書を提出することにより例外的に堅固な建物の建築確認が得られるという一般的な建築規制についての調査結果を記載したものということができるものの、このことから、直ちに、本件物件において、本件重要事項説明書記載の前記の建築制限にもかかわらず三階以上の堅固な建物を建築することが可能であり、したがって、地下車庫築造も可能であるとの結論を導くことはできないというべきである。なぜならば、後記一(三)(3)記載のとおり、本件土地の接面道路について建築基準法四三条一項但書の適用を受けることにより本件土地上に建築する建物の建築確認を得るための条件として建築物が「二階以下」であることが要請されているのであり(甲二の1及び2)、したがって、仮に、原告らの主張するように前記の内容の念書を提出することにより例外的に三階以上の堅固な建物を建築することについて許可を得る方法が一般的に存在するとしても、本件物件については、建築する建物が「二階以下」であることが、建築基準法四三条一項但書の適用を受ける条件となっているのであるから、本件物件において「三階以上」の建物を建築することは、建築基準法四三条一項但書の適用を受ける条件を欠く結果を招来することとなり、結局において建築確認を得ることができないこととなるのである。そして、以上のことは、後記一(三)(3)記載のとおり、本件重要事項説明書補足説明書(甲二の1)及び前記岩田の通路協定申請図写(甲二の2)の記載から明らかに読み取れるものであり、原告らにおいては、被告協栄建設から事前に交付されていたこれら資料や本件契約時における被告三信住宅の横川の説明から十分認識することが可能であったということができる。右のような事情に照らしても、前記田平メモの前記記載部分が原告らの主張するように、本件物件において地下車庫築造が可能であることを示すものということができないことは明らかである。
以上のような事情に加えて、染谷の陳述書(乙ロ六)には、契約当日横川は本件重要事項説明書の前記建築制限の箇所を読み上げたところで染谷が前記田平のメモを取り出して横川に交付して横川がこれを読み上げた事実を否定する記載部分があり、横川も証人尋問において、本件重要事項説明書を読み上げたところで染谷から前記田平のメモの交付を受けた上これを読み上げた事実はない旨供述していること、また、本件重要事項説明書の前記建築制限の記載内容及び前記田平メモの内容に照らし、染谷や横川が本件重要事項説明書の右記載内容に反して原告らに対して地下車庫築造が可能であることを請け合うことは通常考え難いこと等を総合すると、原告らの右各陳述書の記載部分をにわかに信用することはできず、他に右各陳述書の記載部分の信用性を裏付けるに足りる証拠はない。
原告位夫は、本件売買契約締結の前に被告協栄建設の染谷が原告らの自宅を訪れた際に、家の中に飾ってあるクラシックベンツの写真を同人に見せたときにも地下車庫築造が可能であることが本件物件購入の条件であることを話した旨供述し、原告らの各陳述書(甲四、五)にもそのような記載部分があるが、前記の認定事実に照らして、右供述部分や右各陳述書の記載部分をにわかには信用できず、他に原告らの右供述部分や右各陳述書の記載部分の信用性を裏付けるに足りる証拠はない。
原告らの各陳述書(甲四、五)には、原告位夫が本件売買契約の締結前に、被告協栄建設から交付を受けた本件物件の重要事項説明書及び重要事項説明書補足説明書(甲二の1)及び通路協定申請図写(甲二の2)のコピーの記載内容から、地下車庫築造の可能性について疑問を持ったことから、原告位夫は原告幸枝を介して被告協栄建設の染谷に対して、地下車庫築造の可能性の調査確認を依頼したところ、染谷は原告幸枝に対し、電話で、「土地区画整理法による建築制限として地階を有しないものに限り許可されることとなっているが、役所に念書を出せば、地下車庫を造ることができる。」との回答を得た旨の記載部分がある。しかしながら、前記田平メモの「細街路にかかっていないので念書を提出すれば堅固な建物もOK」との記載部分が本件物件において地下車庫築造が可能であることを示すものではなかったことは前記のとおりであるところ、前記認定の本件売買契約の締結に至る経過に照らすと、染谷が原告らに対し、地下車庫築造が可能であるなどと田平の前記調査結果からは出てこない内容の情報を伝えたと認定することは困難であり、他に原告らの右各陳述書の記載部分を裏付けるに足りる証拠はない。
また、原告らは、本件売買契約の締結から一〇日位経過した後に本件物件を染谷の案内で見学に行った際に、染谷は、隣接地の前記岩田の新築した建物を見ながら、「あの建物の屋根の高さの範囲内であれば、地下一階であろうと、半地下であろうと、地下車庫は大丈夫です。」と言った旨供述し、右各陳述書にも同内容の記載部分があるが、前記の認定事実に照らして、右供述部分や右各陳述書の記載部分をにわかには信用できず、他に原告らの右供述部分や右各陳述書の記載部分の信用性を裏付けるに足りる証拠はない。
更に、原告らの提出している関武の陳述書(甲二三の1)には、当時さくら銀行個人財務室カスタマーズ・アドバイザーをしていた関武(関)が、本件売買契約の締結が予定されていた同月二七日の午後一時過ぎ頃、さくら銀行神保町支店で、染谷を同行した原告らから、本件物件における建築物の建築確認について相談を受けたが、その際自動車二台分の車庫について話しが及び、関と染谷は原告らに対し、容積率の問題から一階を車庫にするよりも地下車庫にしてはどうか、その場合半地下の車庫が造り易いのではないかという話しをした旨の記載部分があるが、前記認定の本件売買契約の締結に至る過程に照らし、にわかには信用できず、右関の陳述書の前記記載部分の信用性を裏付けるに足りる証拠はない。
(2) 南側緑一望の条件について
原告らは、本件土地建物の南側に緑を一望できることが本件売買契約の条件となっていた旨主張しているところ、証拠(乙イ一、乙ロ一)によれば、染谷が作成した原告らに関する「お客様カード」(乙ロ一)には、「リゾート感の有る所、森の中、等々」という記載はあるものの、原告らの主張するような「本件土地建物の南側に緑を一望できることが原告らの本件物件購入の条件」である旨の記載がないこと、原告らから被告赤木らに対する同年七月三〇日に発信された本件解除通知書(乙イ一)においても、本件土地建物の南側に緑を一望できることが本件売買契約の条件となっていたものであることについて何ら言及がされていないこと、本訴当事者から提出されている原告らの陳述書(甲四、五)を除く本件売買契約に関する契約書及び関係書類等の書証にも本件土地建物の南側に緑を一望できることが本件売買契約の条件となっていたものであることを示す記載がないことが認められ、以上の事実に照らすと、原告らのこの点の主張事実を認定することは困難である。
原告らの供述及び各陳述書(甲四、五)には原告らの主張に沿う部分があるが、前記認定事実に照らし、にわかには信用できず、他に原告らの右供述部分や右各陳述書の記載部分の信用性を裏付けるに足りる証拠はない。
(3) 以上によれば、本件売買契約においては、本件物件に自動車二台分を格納できる地下車庫が築造可能であること及び本件物件の南側に緑を一望できることが条件とされていたとの原告らの主張を認めることはできない。
(三) 同(五)の事実について
(1) 浄化槽について
本件土地に浄化槽が埋設されていたことは当事者間に争いがない。
原告らは、本件売買契約締結後に浄化槽埋設の事実を知らされた旨主張し、原告らの各陳述書(甲四、五)には、原告らが契約書等に署名押印をして被告赤木らに対し手付金を支払った後に原告位夫が売主の被告赤木靖弘(被告靖弘)に対して隣接土地の浄化槽に関連して本件土地にも浄化槽が埋設されているかどうかを質問して初めて原告らは被告靖弘から本件浄化槽の埋設の事実を知らされた旨の記載部分があるところ、他方、被告三信住宅の横川の陳述書(乙ハ四)には、横川が契約当日重要事項説明書を読み終わった段階で横川において原告位夫の質問に答える形で本件土地に浄化槽が埋設されていることを説明した旨の記載部分があり、また、本件売買契約に立ち会った被告協栄建設の山鹿及び染谷の各陳述書(乙ロ五、六)には、原告らが契約書等に署名押印して契約手続が終了した後に原告らが売主である被告赤木らに対し浄化槽について質問したというのは事実無根である旨の記載があることが認められる。したがって、本件売買契約の手続終了後に初めて被告靖弘から本件土地に浄化槽が埋設されていることを知らされた旨の原告らの右各陳述書の記載部分はにわかに信用することができず、他に原告らの右陳述書の記載部分を裏付けるに足りる証拠はない。
なお、証拠(乙ロ二、五、六、乙ハ四)によれば、原告らは、被告赤木らに対し、本件売買契約締結の翌日である平成八年五月二八日、被告協栄建設を介して、浄化槽の撤去費用(約一〇万円の見積)の半額を負担するよう要求したのに対し、被告赤木らにおいて原告らの右要求に応じて浄化槽の撤去費用の半額を負担することに同意し、更に、同年七月に原告らは、被告赤木らに対し、浄化槽の撤去費用を全額負担するように要求したのに対し、被告赤木らにおいてこれに同意した事実を認めることができる。
以上によれば、原告らにおいて本件土地に浄化槽が埋設されている事実を被告赤木らから知らされないままに本件売買契約を締結した後に原告位夫の被告靖弘に対し質問に答える形で被告靖弘から浄化槽埋設の事実を知らされたとの原告らの主張事実を認定することは困難である。なるほど、横川の陳述書の前記記載部分によっても、原告らが初めて浄化槽埋設の事実を知らされたのは本件売買契約の手続が開始された後であることは否定できないが、原告らが浄化槽埋設の事実を知った後もこのことを理由に本件売買契約の成立を否定する何らかの言動に出たことを認めるに足りる証拠はなく、原告らにおいて最終的に契約を成立させるための手続を終了させているものと見ることができる。そして、その後の交渉により浄化槽の撤去費用を全額被告赤木らにおいて負担することとなった経過に照らすと、原告らにおいては、本件土地に浄化槽が埋設していることを認識した上これを前提として本件売買契約の成立を認容していたものというべきであるから、本件土地に浄化槽が埋設されていた事実をもって民法五七〇条所定の「隠レタル瑕疵」に当たるとの原告らの主張は採用できない。
また、原告らは、被告赤木らは、原告らに対し、浄化槽埋設の事実について本件売買の契約時までに告知する義務があり、その不告知は債務不履行である旨主張するが、前記のとおり、原告らが浄化槽埋設の事実を知った後もこのことを理由に本件売買契約の成立を否定する何らかの言動に出たことを認めるに足りる証拠はなく、原告らにおいて最終的に本件売買契約を成立させるための手続を終了させているものと見ることができ、したがって、原告らは本件土地に浄化槽が埋設していることを認識した上これを前提として本件売買契約の成立を認容していたものというべきであるから、被告赤木らの告知義務違反をいう原告らの右主張も採用することはできない。
(2) 本件建物が違法建築物であることについて
原告らは、本件建物は建築確認を経ておらず、かつ建坪率違反の違法建築物である旨主張するが、他方被告赤木らは、本件建物が建築確認を経てないものかどうか知らない旨主張している。
証拠(乙イ二の1、原告幸枝)によれば、被告赤木らの代理人作成の原告ら代理人宛の書面には、本件建物が建築確認を経ていないものである旨を自認する旨の記載があり、また、原告幸枝は、杉並区役所の担当者から本件建物が建築確認を経ていない旨の説明を受けた旨供述している。しかしながら、本件建物が建築確認を経ていないという原告らの主張に沿う右の証拠はいずれも間接的な証拠であり、本件建物が建築確認を経ていないものであることを直接裏付けるに足りる証拠は提出されていないから、本件建物が建築確認を経ていないものと断定することは困難というべきである。
また、仮に本件建物が建築確認を経ていないもので、かつ建坪率違反の建物であるとしても、証拠(甲一、二の1、乙イ四、五、乙ロ五、六)によれば、本件売買契約書及び本件重要事項説明書補足説明書には、買主である原告らにおいて、平成八年一一月三〇日までに原告らの責任と費用負担において建物の解体撤去と滅失登記申請を行う旨の特約の記載があるところ、本件売買契約の締結に際しては、原告らからの申入れにより、本件建物の撤去費用については被告赤木らと原告らで折半するとの合意がされたこと、平成八年九月二〇日、被告靖弘に対して本件土地上の建築物新築について建築確認が得られている事実を認めることができる。
右の認定事実に照らすと、原告らは本件土地上の本件建物を解体撤去して建物を建て替える予定であったものであり、本件売買契約は原告らの右の予定を前提として、本件建物の解体撤去を契約内容に含むものであり、また本件建物の解体撤去の後に原告らにおいて本件土地に建物を新築するため建築確認を得ることは可能であったということができ、これによれば、本件売買契約上解体撤去されることとされている本件建物が仮に原告らの主張するような違法建築物であるとしても、これをもって民法五七〇条所定の「隠レタル瑕疵」に当たるということは困難であり、また、被告赤木らにおいて原告らに対し、本件建物が違法建築物であるとの事実を本件売買契約の成立時までに告知すべき義務が本件売買契約に付随する債務として発生しているということもできないというべきである。
(3) 本件土地の接面道路について
証拠(甲二の1、2、四、五、二二の4、乙イ五、乙ロ五、六、乙ハ四、五の4、5、原告飯島位夫、証人横川直史)によれば、本件土地建物についての被告赤木らと被告三信住宅との間の媒介契約は平成八年三月二〇日に締結されたが、被告三信住宅の横川は、本件土地が接面する北側の道路が建築基準法上の道路に該当せず、また、被告赤木らから見せられた通路協定申請図の写しは一部の所有者の通路協定に承諾する旨の署名押印のないものであったことから、本件土地に建物を建築するには建築基準法四三条一項但書の適用により建築確認を得る必要があったため、本件土地についての建築基準法四三条一項但書の適用の見通しについて、杉並区役所建築指導課の担当者に照会し、申請者岩田の通路協定申請図写(甲二の2)に「通路のみ接する敷地についての建築条件」として記載された「1 建築確認決裁時迄に、道路後退杭の設置及び形態の築造を行う。2 建築物の主要用途は専用住宅、階数は二階以下、最高高さは8.5メートル以下延べ面積は二〇〇平方メートル以下、構造は準耐火構造以上とする。3 各部分の高さは、斜線等の許容値からのクリアランスを二〇センチメートル以上とする。4 外壁の後退は避難通路で有効一メートル以上とする(一階の出窓、設備等を含む)その他は五〇センチメートル以上とする。5 建築を行う際は、近隣に計画の説明を行い報告書を提出する。確認決裁時までに工事監理者又は工事施工者を定め完了検査を受ける。」という各条項(本件建築条件)記載の措置を講じることにより建築基準法四三条一項但書の適用が許容されて本件土地上に建築する建物の建築確認を得ることが可能となるとの回答を得たこと、被告三信住宅は杉並区役所から右の回答を得たことから、本件土地上に建築する建物について建築確認を得ることが可能であると判断して被告赤木らとの間に本件土地建物の売買に関する前記媒介契約を締結したこと、本件重要事項説明書補足説明書(甲二の1)の3項には、杉並区役所建築指導課によれば、前記岩田の通路協定申請図写(甲二の2)に記載された「通路のみ接する敷地についての建築条件」の各条項に適合する措置を講じることにより建築基準法四三条一項但書の適用が許容されて本件土地上に建築する建物の建築確認を得ることが可能であるが、詳細は杉並区役所建築指導課に問い合わせされたい旨の記載があり、この重要事項説明書補足説明書の末尾には前記岩田の通路協定申請図写が添付されていること、前記一(二)(1)記載のとおり、原告位夫は、本件売買契約の締結当日の同月二七日までに、被告協栄建設から交付を受けた前記重要事項説明書補足説明書及び前記通路協定申請図写のコピーを通読して概略その記載の内容を理解していたこと、本件売買契約の締結に際しては、被告三信住宅の横川において、前記重要事項説明書補足説明書及び前記通路協定申請図写の記載内容を読み上げることにより、本件土地上の建物を建築するために建築確認を得るための条件について説明していること、なお、本件隣接土地の所有者である岩田は建築基準法四三条一項但書の適用により右土地上に建築する建物の建築確認を得たこと、また、被告赤木らは、平成八年九月二〇日付で建築基準法四三条一項但書の適用により本件土地上に一戸建ての住宅を新築するための建築確認を得たことが認められる。
以上の認定事実に照らすと、本件土地の接面道路については、本件土地を建築物の敷地とするために道路となる敷地の所有者全員の承諾に基づく通路協定が成立していなくとも、建築基準法四三条一項但書の適用を受けるための前記の本件建築条件を具備することにより、本件土地を建築物の敷地とすることが可能であったのであるから、たとえ原告らの主張するように、本件土地の接面道路について、道路となる敷地の所有者全員の承諾に基づく通路協定が成立していなかったとしても、そのことが民法五七〇条所定の「隠レタル瑕疵」に当たるということはできないし、また、被告赤木らにおいて、本件売買契約に付随する義務として、本件土地の接面道路について通路協定が成立していなかったことを買主である原告らに対して告知する義務があるということもできない。
(四) 以上によれば、その余の点について判断をするまでもなく、原告らの被告赤木らに対する本件請求は理由がない。
二 被告協栄建設に対する請求原因について
(一) 主位的請求原因について
(1) 請求原因2(一)(1)及び同(3)の事実は当事者間に争いがない。
(2) 同(2)について
原告らは、被告協栄建設との間で、平成八年五月中旬ころまでに、本件土地建物が、本件土地に自動車二台分を格納できる地下車庫が築造可能であること及び本件土地建物の南側に緑を一望できることという本件二条件を満たした東京都内の土地建物の購入の媒介を被告協栄建設に依頼する本件媒介契約を締結した旨主張しているが、本件売買契約においては、本件土地建物が、本件土地に自動車二台分を格納できる地下車庫が築造可能であること及び本件土地建物の南側に緑を一望できることが条件とされていたとの原告らの主張を認めることはできないことは前記一記載のとおりであり、前記一記載の認定事実に照らすと、原告らの被告協栄建設との間の本件媒介契約が本件土地建物が前記の本件二条件を具備するものであることを前提して締結されたとの原告らの主張事実を肯定することは困難であり、他にこの点の原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。
(3) 同(5)について
① 浄化槽について
本件土地に浄化槽が埋設されていたことは当事者間に争いがないが、前記一(三)(1)の記載のとおり、原告らは本件土地に浄化槽が埋設していることを認識した上これを前提として本件売買契約の成立を認容していたものというべきであるから、この点について被告協栄建設に原告らの主張する調査確認義務や説明義務があること、ないし原告らに対して本件売買契約を締結しないよう指導・助言する義務があることを肯定することはできないというべきである。
② 本件建物が違法建築物であることについて
本件建物が建築確認を経ていないものであると断定することは困難であること、本件売買契約は本件建物の解体撤去を契約内容に含むものであり、また、本件建物の解体撤去の後に原告らにおいて本件土地に建物を新築するため建築確認を得ることは可能であったことが認められることは前記一(三)(2)記載のとおりであり、右の事実が認められる本件においては、本件売買契約上解体撤去されることとされている本件建物が仮に原告らの主張するような違法建築物であるとしても、この点について被告協栄建設に原告らの主張する調査確認義務や説明義務があること、ないし原告らに対して本件売買契約を締結しないよう指導・助言する義務があることを肯定することはできないというべきである。
③ 本件土地の接面道路について
本件土地の接面道路については、本件土地を建築物の敷地とするために道路となる敷地の所有者全員の承諾に基づく通路協定が成立していなくとも、建築基準法四三条一項但書の適用を受けるための前記の本件建築条件を具備することにより、本件土地を建築物の敷地とすることが可能であったことは前記一(三)(3)に記載したとおりであるから、たとえ原告らの主張するように、本件土地の接面道路について、道路となる敷地の所有者全員の承諾に基づく通路協定が成立していなかったとしても、この点について被告協栄建設に原告らの主張する調査確認義務や説明義務があること、ないし原告らに対して本件売買契約を締結しないよう指導・助言する義務があることを肯定することはできないというべきである。
(4) 同(6)について
原告らは、本件売買契約においては、原告らにおいて本件建物の取り壊し義務を負担する旨の特約があるが、被告協栄建設は原告らに対して、本件売買契約の締結に際して、右の特約について何らの説明も行わなかった旨主張しているが、本件売買契約書及び本件重要事項説明書補足説明書には、買主である原告らにおいて、平成八年一一月三〇日までに原告らの責任と費用負担において建物の解体撤去と滅失登記申請を行う旨の特約の記載があること、本件売買契約の締結に際しては、原告らからの申入れにより、本件建物の撤去費用については被告赤木らと原告らで折半するとの合意がされたことは前記一(三)(2)に記載したとおりであり、原告らは本件売買契約の締結に先立ち被告協栄建設から本件売買契約書及び本件重要事項説明書補足説明書等のコピーの交付を受けて、原告位夫においてこれを読んで事前に契約内容について検討を加えていること等の前記一(二)(1)に記載した本件売買契約締結に至る経過に照らすと、原告らの指摘する右特約について被告協栄建設に説明義務の責任を問うべき落ち度を肯定することは困難である。
(5) 以上によれば、その余の点について判断をするまでもなく、原告らの被告協栄建設に対する本件主位的請求は理由がない。
(二) 予備的請求について
(1) 請求原因2(二)について
本件売買契約の内容、被告協栄建設の担当者染谷及び山鹿の原告らに対する対応の態様、本件売買契約に至る経緯、本件売買契約に際しての原告らの認識等前記一記載の認定事実及び前記二(一)(2)ないし(4)に説示したところに照らすと、被告協栄建設には、原告らの主張するような宅建業者としての告知義務違反があり、これが原告らに対する不法行為を構成するとの原告らの主張を肯定することは困難である。また、前記一の認定事実に照らすと、本件土地建物が原告らの希望に合致しない物件であるとの原告らの主張事実を肯定することはできず、他にこの点の原告らの主張事実を認めるに足りる証拠はないから、本件物件が原告らの希望に合致しないことを理由に、被告協栄建設に拙劣かつ不適切な売買をしないよう指導・助言する注意義務があるとの原告ら主張も採用することはできない。
(2) 以上によれば、原告らの被告協栄建設に対する本件予備的請求は理由がない。
三 被告三信住宅に対する請求原因について
(一) 請求原因3(一)について
本件土地に浄化槽が埋設されていたことは当事者間に争いがないが、前記一(三)(1)の記載のとおり、原告らは本件土地に浄化槽が埋設していることを認識した上これを前提として本件売買契約の成立を認容していたものというべきであり、かつ結局において、本件土地に埋設されていた浄化槽は原告らの要求に基づき、被告赤木らにおいて全額負担することになったことに照らすと、この点について被告三信住宅に原告らの主張する説明義務があることを肯定することはできないというべきである。
(二) 同(二)について
本件建物が建築確認を経ていないものであると断定することは困難であること、また、本件売買契約は本件建物の解体撤去を契約内容に含むものであり、また本件建物の解体撤去の後に原告らにおいて本件土地に建物を新築するため建築確認を得ることは可能であったことが認められることは前記一(三)(2)記載のとおりであり、右の事実が認められる本件においては、本件売買契約上解体撤去されることとされている本件建物が仮に原告らの主張するような違法建築物であるとしても、この点について被告三信住宅に原告らの主張する調査確認義務ないし説明義務があることを肯定することはできないというべきである。
(三) 同(三)について
本件土地の接面道路については、本件土地を建築物の敷地とするために道路となる敷地の所有者全員の承諾に基づく通路協定が成立していなくとも、建築基準法四三条一項但書の適用を受けるための前記の本件建築条件を具備することにより、本件土地を建築物の敷地とすることが可能であったことは前記一(三)(3)に記載したとおりであるから、たとえ原告らの主張するように、本件土地の接面道路について、道路となる敷地の所有者全員の承諾に基づく通路協定が成立していなかったとしても、この点について被告三信住宅に原告らの主張する調査確認義務ないし説明義務があることを肯定することはできないというべきである。
(四) 以上によれば、その余の点について判断をするまでもなく、原告らの被告三信住宅に対する本件請求は理由がない。
四 結論
以上の次第であるから、原告らの本件請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官濵野惺)
別紙<省略>